アナウンサー

大平 真理子
2022年10月23日(日)

はーちゃんとカチンコチンの術

名前の頭文字をとって、娘を「はーちゃん」と呼んでいる。

はーちゃんは年中で、おならとうんちを連呼していれば永遠にケラケラ笑い続けるような子どもだ。365日支離滅裂なオリジナルソングを熱唱し、小食な割によく動く。見えないけれど背中には多分ソーラーパネルがついている。

運動会や発表会に親として参加するようになりそんなはーちゃんが極度に緊張しやすい性格だと知った。みんなが集まる場だと硬直するのだ。これを私は「カチンコチンの術」と呼んでいる。

去年の冬、お迎えにいくと担任の先生が話しかけてくれた。
「当日動かないかもしれませんが、驚かないであげてくださいね」
あぁ…。翌週に控えたクリスマス発表会のことを言っているのだとすぐに分かった。
「大丈夫です。わかっていますから」と返答する。

案の定、クリスマス会の当日に得意の術は発動した。おそろいの赤い帽子姿で鈴を打ち鳴らす友達の横で先生の服の袖をつかみ、氷のようになっていた。歌は「あわてんぼうのサンタクロース」だったが、あわてんぼうのあの字もなかった。
「なんで固まっちゃったの?」と聞いてみると「はずかしくてたまらないの。へただから」と小さな声が返ってきた。はーちゃんは明るいし、うんちうんちと言ってるが、意外と自分に自信がないのだ。

迎えたことしの秋の運動会。自信をつけてあげるために私も頑張ることにした。ことしの種目は徒競走とダンス。特にダンスは、はーちゃんの苦手分野なのだがことしの曲は「マツケンサンバ」だった。難しいし、ついていけないと諦め、カチンコチンの術が発動する可能性が高いと思った。いつもなら園で練習しているダンスを親が知ることはないし対策のやりようがないのだが、ことしはコロナ禍が救いになった。
感染が急拡大したこの夏、外出できない子供たちのことを思い、こども園の先生たちが「親子で踊ろう!」と題したダンス動画を用意してくれたのだ。そこに「マツケンサンバ」が含まれていた。

運動会の種目が発表されて以降、はーちゃんと動画をみながら毎晩「マツケンサンバ」を踊ることにした。踊らなきゃいけないことを盾に洗濯と食器洗いなど家事の色々は夫に押し付けた。しめしめと思っていたが、それなら…と夫もサンバに参加するようになった(そして家事は分担に)。結局、運動会までの1,2週間、家族みんなで毎晩サンバを踊った。それぞれそんなにうまくもなく、三者三様の腰のふりをみせあってはゲラゲラ笑った。はーちゃんのお尻のぷりぷりは本当にツボで、楽しそうに笑う私たちの前で笑い崩れそうになりながら何度も腰を振ってくれた。

「叩けボンゴ、響けサンバ」の歌詞が頭に焼き付いたころ、運動会本番がやってきた。
「タラララ…」軽快なイントロとともに音楽が始まる。はーちゃんは…家と同じようにニコニコしながらお尻を振った。カチンコチンだったあの頃の彼女はもういない。ミニマツケンとして堂々たる踊りだった。私は感動して涙を流しそうになったが、曲がサンバだったおかげで流さずに済んだ。泣きたくても泣かせない、さすがサンバだなと思った。
はーちゃんが先日5歳になった。
寒くなる時期を前に、はーちゃんと沢山散歩に出かけようと思っている。
交通ルールを覚えたこともあって、最近は歩いていると「もっと白い線の内側を歩いて」とか私が事故に遭わないようにいろいろ指導してくれる。
横断歩道を渡る際の右左確認も欠かさない。
「みぎ、ひだり、みぎってするよ。みぎのほうがちょっとかわいいね」

そう言って笑う彼女の成長をこれからも見逃さないようにしたいと思った。
5歳になったはーちゃん
5歳になったはーちゃん

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